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2017年1月18日 (水)

なぜ診断を検討するのですか?

1 なぜ診断を検討するのですか?

 ⅰ 交通事故の被害者に対して下された診断が正しいのかどうかが争点となっている裁判例は多数存在します。しかし、診断が正しいかどうかを検討することに本当に意味があるのでしょうか。その検討により、症状の有無や程度が変わるのでしょうか。

 結論から言えば、診断の検討に意味があるのは、極めて限られた例外的な場合のみです。即ち、被害者の症状について別の傷病名で説明でき、その場合には被害者の症状が交通事故により生じたと言えないときにのみ、加害者側はその主張をすることに意味があります。

 ⅱ 加害者側の提出する医学意見書には、多種多様な誤った医学的知見(ウソ医学)やこれを支える誤った理屈(ウソ理屈)が記載されていることが多く、これに騙された裁判例は非常に多く存在します。

   その中でも、①診断が正しいといえなければ、症状が認められない、②診断が正しいと認められなければ事故との因果関係は認められないとの主張は、これに続く多くのウソ医学やウソ理屈の骨格を形成する定番中の定番のウソ理屈です。以下では、CRPSを例に述べます。

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2 診断が正しいかどうかは事実の存否の問題ではない

ⅰ 診断は、症状(及び検査結果)の存在を前提に、これに対する評価として下されます。診断が正しいかどうかは事実の存否の問題ではありません。事実(症状)の存在を前提とした評価の問題です。従って、診断の適否は主要事実(被害者が主張・立証するべき事実)やその一部になる余地はありません。

ⅱ これに対して、加害者側は医学意見書を用いるなどして「CRPSに罹患した」、「CRPSによる発症」、「CRPSに由来する症状」などの表現を多用して、これらが主要事実であるかのように主張します。

  例えば、「被害者は本件事故によりCRPSを発症して、CRPSに由来する症状が生じたと言えるかどうかが問題となる。」として、被害者の症状(疼痛や関節拘縮など)を「CRPSに由来する症状」にすり替えます。

  これは「CRPSに由来する症状」という事実の有無を判断しているとの錯覚に陥れることを目的とするものです。その上で、被害者側にて「CRPSに由来する症状」であることを証明しなければならないとの誤りに誘導します。

  加害者側が述べる理屈は、「あの場所には『美しい山』は存在しない。よって、あの場所には山は存在しない。」との理屈と構造が同じです。このことに気付けば、「被害者には『CRPSによる症状』は存在しない。よって、被害者には関節拘縮は存在しない。」との理屈が誤りであることは明白です。

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3 症状は診断により裏付けられない

 ⅰ 診断は事実(症状)に対する評価であって、事実を変更する力はありません。 

患者の症状(例えば、熱が39度ある)について、「風邪である」と判断しようと、「はしかである」と判断しようと、熱が39度あるという事実に変化は生じません。診断は事実(症状)に対する評価であって、事実を変更する力を持ちません。

これに対して、「風邪との診断は誤りである。よって、平熱である(体温計が壊れている)。」との理屈は誤りです。

 ⅱ 症状の存在は常に診断の基礎となる大前提であり、診断が正しくとも、誤っていたとしても、変更されたとしても、症状の存否や程度に影響を与えません。

症状を根拠に診断を下したのに、その診断を根拠に症状を認めることは循環論法でもあります。診断を根拠に症状を認めることは、例えるならば、死亡診断書の傷病名が正しいことを理由に死亡の事実を認定するようなものです。

診断は症状に対する評価として下されるものであり、診断が正しくとも、誤っていたとしても、変更されたとしても、症状の有無や程度に影響を与えません。

 ⅲ 以上に対しては、「その症状が存在すると仮定して診断を検討したところ、その診断ができない。よって、その症状は存在しない。」との理屈であれば成り立つとの反論も考えられます。

   実際にも、加害者側は「被害者の主張する症状ABCが存在すると仮定して、CRPSと診断できるかどうかを検討したところ、その診断はできない。よって、被害者には『CRPSに由来する症状』であるABCは存在しない。」との理屈を述べることが多くみられます。

   しかし、その診断ができないことは症状が存在しないことを導かず、その症状に対して別の診断が可能であることを意味するに過ぎません。また、「症状が存在する」を前提に「症状が存在しない」が導かれたことは、前提と矛盾する結論を導いたことに他ならず、通常は検討が誤りであることの論証例です。加えて、結論が逆の場合(診断を認める場合)には循環論法となります。

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4 被害者が証明する対象は事実である

被害者が訴訟で後遺障害として主張しているのは、例えば左上肢の拘縮や頚部から左上肢にかけての強い痛みなどの具体的症状であって診断の適否ではありません。

これに対して、加害者側は、「CRPSによる症状」が後遺障害であるとの誤りに誘導しようとする。これは症状を病名にすり替える誤りです。

現実に被害者の主張する症状(後遺障害)が存在し、それが交通事故により生じたものであるならば、その傷病名の適否(症状に対する評価)は問題とはなりません。加害者側が傷病名を争うことに意味があるのは、別の具体的な傷病であることを積極的に主張して、その別の傷病が交通事故により生じたものではないことが主張できる場合のみです。

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5 労災や自賠責では診断の適否を判断しません

  労災や自賠責では診断の適否は判断対象ではありません。これはごく初歩的な基礎知識です。実際にも具体的な症状ごとに区分された後遺障害等級表に対する当てはめを行なうのが後遺障害認定の基本です。

  仮に万が一、労災や自賠責で診断の適否を判断すると、医師法17条の「医業」を行なったものとして犯罪となります。後遺障害認定という定型業務のなかで診断の適否を判断することは、まさに「医業」そのものです。

自賠責の異議申立に対する審査の手続や審査会の判断では、医師が加わることもあるとされていますが、医師がアドバイスをしたからといって、医学的判断をすることはできません。看護婦が医師のアドバイスを受けて診断できないのと同じです。従って、労災や自賠責の定型的処理の中に「医師のアドバイスによる診断の適否の判断」が組み込まれることはあり得ません。

仮に認定担当者が医師であるとしても、患者を診察せずに診断を下すことは医師法20条違反の犯罪となります。従って、患者を診察しない自賠責の手続で診断の適否の判断することはできません。

なお、RSD(反射性交感神経性ジストロフィー、CRPSタイプ1)と高次脳機能障害においては「労災や自賠責が診断の適否を判断している」との誤りを加害者側が主張することが多いため、以下に述べます。

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6 労災や自賠責ではRSDであるかどうかを判断しません

 ⅰ そもそも労災や自賠責のRSDの3要件は診断基準ではありません。カウザルギー(CRPSタイプ2)と同様に扱うかどうかを判断するための基準であると基準に明記されています。これに対して、3要件が診断基準であるかのように主張することは加害者側の定番のウソ医学です。

   また、RSDの3要件は後遺障害の重症度を判断する指標でもありません。カウザルギーと同様に扱うかどうかの判断においてのみこの3要件を用いることができます。

 ⅱ 以下のとおり、現実のRSD患者であっても、この3要件を満たす者は皆無に等しいと推測できることや、この3要件は「カウザルギーと同様に扱うかどうかを判断する基準」としても誤りです。この点は私のブログで繰り返し述べてきましたが、以下に要約して述べます。

   日本版のCRPS判定指標の5項目をAないしEとすると、判定指標は現実のCRPS患者で「5個のうちいずれか2個」の要件(AB、AC、AD、AE、BC、BD、BE、CD、CE、DEの10通りのうちいずれか)を満たす者が82.6%ことを意味します(感度82.6%の意味。感度とはその疾患の患者がその検査で陽性となる割合です)。

CRPS患者の約2割はAないしEのうち1つしか満たしません。また、判定指標からはCRPSには必須の症状が1つたりとも存在しないことが、一見して明白です。

   これに対して、労災。自賠責のRSDの3要件は、①上記10通りのうちのABのみに限定し、さらに②A(皮膚、爪、毛のいずれかの萎縮性変化)を皮膚の変化のみに限定し、③B(関節可動域制限)を関節拘縮に限定し、加えて④骨萎縮が必須であるとし、さらに⑤上記3つの全てが明白であること(重症であること)を要求しています。

これではRSD患者のほぼ全てがこの要件を満たしません。実際にもCRPSの事案で自賠責が3要件を満たしたと認定した事案は裁判例(重症例が多い)では皆無に近い状態です。裁判例では4級ないし5級相当と思われる症状の事案で14級や非該当が少なくありません。

   被害者の症状が重篤であることが多い傷病(CRPS)を狙い撃ちした特殊な要件がどうして設定されたのか、理解し難い面があります。

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7 労災の「高次脳機能障害」は疾患の名称ではなく、行政上の概念です

ⅰ 医学書でも「行政上の高次脳機能障害」と「医学での高次脳機能障害」とを明確に分けて説明するものが多く存在します。

なお、医学での「高次脳機能障害」は疾患の名称ではなく、種々の原因(疾患、怪我など)により生じた一定範囲内の症状をあらわす概念です。このため国際疾患分類(ICD)にもこの病名は存在しません。

日本高次脳機能障害学会のいう「医学での高次脳機能障害」は失語症が含まれている点において、「行政上の高次脳機能障害」とは異なります。日本高次脳機能障害学会はもともと日本失語症学会という名称で失語症を中心にしていました。「行政上の高次脳機能障害」には失語症が含まれていないという重大な欠陥があります。

この点について、「失語症は障害者手帳の対象となっていたため、行政上の概念から除外された」と説明されることもありますが、事故(交通事故)により失語症になる方もおられるため、この説明は誤りというほかありません。現状では事故により失語症になった方が適切な賠償を受けることは非常に困難です。

 ⅱ 注意するべき点は、自賠責で認定の対象となるのは「行政上の高次脳機能障害」の有無ではなく「脳外傷による行政上の高次脳機能障害」の有無であることです。

自賠責では交通事故後に「行政上の高次脳機能障害」とされる症状が生じた方のうち、「脳外傷による高次脳機能障害」の要件を満たす人(1~5%位であろうか)のみが保護される仕組みになっています。この要件から漏れた方は「非器質的精神障害」と見なされます。

  上記に対しては、「行政上の高次脳機能障害」に該当するかどうかは、行政の管理区分としての「高次脳機能障害」に該当するかどうかの判断であるとも言えます。このように考えれば、その該当性の判断は医学的判断ではないと言えます。

  しかし、審査の対象となる被害者(患者)は「高次脳機能障害」と診断されていることが通常です。このため単純に「行政上の高次脳機能障害」の該当性の判断であるから、自賠責でも判断できるとは言い難い面があります。

  この問題を回避するために、自賠責では「脳外傷による高次脳機能障害」に当たるかどうかを判断し、「高次脳機能障害」であるかどうかを判断しない仕組みになっています。

  以上に対して、加害者側は、「脳外傷による高次脳機能障害」の要件を「高次脳機能障害」それ自体の要件と混同させる主張をすることが通常です。また、「行政上の高次脳機能障害」が医学的な疾患の名称であるかのように扱い、「高次脳機能障害を発症した」、「罹患した」などの表現を用いて、その診断の適否の検討に誘導することも非常に多いですが、いずれも誤りです。

 

 ⅲ 以上のとおり、労災や自賠責においては、診断が正しいかどうかの判断をすることなく、長年にわたり後遺障害認定を行なってきた実績があります。

   これに対して、「診断の適否を判断しなければ後遺障害の有無や程度を判断できない」とする考えは、事実において明らかに誤っているというほかありません。

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8 「罹患したから症状が生じる」の誤り

 ⅰ 以上に対して、加害者側は診断の適否(罹患したこと)が主要事実であると誤解させるべく多種多様な主張を多層的に行なうことが多いです。

   よく見られるのは、「原告の関節拘縮は『CRPSに由来する症状』である。原告がCRPSに罹患したからこそ、『CRPSに由来する症状』が生じた。従って、原告がCRPSに罹患したかどうかにより、『CRPSに由来する症状』が存在するかどうかが決まる。」との理屈です。

   これは単なる症状を「Aに由来する症状」にすり替えて、診断の適否を検討するように誘導するもので、CRPSのみならず、低髄液圧症候群など多種多様な傷病名の事案で加害者側が用いるウソ理屈です。そこでは「Aに罹患した状態」、「Aを発症した」などの表現が多用されます。

   もちろん、このような医学意見書を本当に医師が作成したのであろうか、プロのゴーストライターでなければ訴訟用のウソ医学やウソ理屈を多用した主張をここまで巧妙には書けないのではないかとの疑問は当然に生じます。

 

 ⅱ 症状をもとにして診断が下されるのであり、診断が正しいから症状が生じるわけではありません。上記の主張にはトリックがあります。それは「発症した(罹患した)から症状が生じる」との理屈です。この理屈はあたかもウィルス性疾患に感染してそれ故に症状が生じたとの因果性を含んでいます。

  しかし、CRPSはウィルス性疾患ではなく、患者に一定の症状が存在することによりその診断が下されます。この診断により症状が生み出される関係は存在しません。医師が「CRPSを発症した」などの表現を用いることもありますが、それは「患者の症状はCRPSと評価できる」との意味で、上記の因果性を含みません。

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9 症状に対する説明として診断を求めるウソ理屈

 ⅰ 加害者側のウソ医学、ウソ理屈は通常は多層的に主張されます。加害者側の医学意見書には上記の因果性とは別の理屈も記載されることが通常です。

  例えば、「被害者の症状をCRPSと認めることはできない。即ち、被害者の症状は医学的に説明できない全く不可解な症状であると言わざるを得ない。よって、そのような症状を認めることはできない。」との主張です。要するに、「診断が正しいと言えなければ症状は認められない」との理屈です。この点に気付けばこのウソ理屈に騙されることはないと思います。

  この理屈の背景には、『青い本』の「後遺障害認定の問題点」が述べるいわゆる「証明と説明の区分論」があります。そこで述べられている「医学的に説明可能」の意味を「病名が正しいことにより症状が説明される」とする誤解に誘導すると、上記の理屈が補強されます。

ⅱ この理屈には、いくつかの致命的な問題点があります。

第1に、この理屈は「診断が正しいことにより症状が認められる」との構造であるため上記の循環論(症状をもとに診断を下し、その診断をもとに症状を認める)に陥ります。

  第2に、症状が存在することと、その症状を医学的に説明できることとは次元が異なる別の問題です。熱が上がった原因が不明でも、温度計が壊れていることになりません。死因が不明だからといって死者が生き返るわけでもありません。

  第3に、現実的な問題として、ほぼ全ての疾患には非典型症例が存在するところ、その症例がどうして生じるのかを説明することは非常に困難です。典型症例においても医学的機序が解明されていないものは非常に多く存在します。

  第4に、自賠責では診断が正しいかどうかを判断しないため、「医学的に説明可能」の意味を診断による説明と理解することはできません。『青い本』でさえも「医学的に説明可能とは、現在存在する症状が、事故により身体に生じた異常によって発生していると説明可能なもの」としています。

  第5に、被害者がCRPSとの診断を下された事案においては、その診断が被害者の症状を説明できる最も適切な病名であることが通常です。これを否定するためには被害者の症状をより合理的に説明できる代替案(具体的病名)をあげて主張する必要があります。これが鑑別診断です。具体的な対案を出すことなく「とにかく(確実に)CRPSであるとは言えない。」と主張することは診断を検討する方法として誤りがあります。

 

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10 診断を否定するためには別の候補をあげる必要がある

 ⅰ 臨床では医師は患者の症状を最も合理的に説明できる病名を診断します。通常はその病名により患者の症状のほとんどが説明できます。従って、その診断を否定するためには他の具体的な病名をあげて、その対案の方が患者の症状をより合理的に説明できることを主張する必要があります。これが鑑別診断です。

  医学的な手法(鑑別診断)においては、診断が否定されるのは通常は代替案となる病名が患者の症状をより合理的に説明できる場合です。診断を検討した結果、患者の症状が説明不能に陥るのはおかしなことです。

ところが、訴訟では加害者側は代替案をあげることなく、現実に診断された病名の診断基準を厳格化して主張することが恒例となっています。この主張はウソ医学です。対案なき検討は鑑別診断という医学的な手法を無視したものです。

 ⅱ 鑑別診断の考えは、「代替説明」という基本的な論理(条理)を用いるものといえます。ある事実について、Aという説明ができているところ、他の有力な説明(B)を提示することなく、「とにかくAであるとする確実な証拠はない」と主張することは誤りです。代替案となる説明を提示していないからです。

   要するに「Aではないとしたら、いったい何なんだ!」というごく自然な反論への回答が必要ということです。この回答(代替説明)を用意しない主張が誤りであることは、一般的な常識であるとも言えます。

   最高裁判決においても「代替説明」の理屈は取り入れられています。有名なルンバール事件やB型肝炎事件において、ある事実(P)が原因であるとの推定が成り立つ状況においては、代替説明となる具体的な他原因を相当程度に主張・立証しなければ、それ(P)が原因であることを否定できないとする論理は、判例上確立されています。

   これは訴訟法的には表見証明や一応の推定の問題としても説明できます。即ち、ある推定が成り立つ状況においては、相手方において具体的な反対事実を相当程度に立証しなければなりません。実際にも裁判例において、「他に合理的な説明は考えられない」、「他に原因となりうる具体的な事情は見当たらない」などの表現で代替説明の論理を述べるものは非常に多く存在します。

 ⅲ 以上のことから、訴訟の場においても、ある診断が下されていて、それにより患者の症状について一応の説明が可能な場合においては、その診断を否定する側において具体的な代替案を提示して、その代替案となる病名がより合理的に患者の症状を説明できることを主張しなければならない、と言えます。もちろん、加害者側がこの主張をする意味があるのは、その代替案が交通事故により生じる傷病ではない場合のみです。

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11 病名と特定の症状と結びつける誤り(病名と症状の混同)

  病名による医学的説明にこだわっている裁判例においては、病名を特定の症例に強く結びつける誤り(病名と症状の混同)が多く見られます。

  例えば、「CRPSには激しい痛み、皮膚の変化、骨萎縮が必須であり、これが存在しないものはCRPSではない。CRPSと認められない以上、その症状は単なる痛みの症状に過ぎず軽いはずであり、関節可動域制限も実は主張より軽いはずだ。」との理屈です。この考えは、病名を特定の症例と同視する強い実感に基づいているように思います。

  もちろんCRPSには必須の症状は1つたりとも存在しません。これはごく初歩的な医学的常識です。必須の症状が1つも存在しないことは疾患として特殊なことではなく、極めて頻繁に見られることです。医学書でその疾患で見られる基本症状として列挙されている症状は、ほとんどの場合必須の症状ではなく、多くの患者で確認できる症状に過ぎません。

  ところが、加害者側のウソ医学ではその疾患であると認めるためには多くの症状や検査所見が必須であると主張することが恒例となっています。

診断に際して重要なことは、「現実に確認された症状や検査所見を最も合理的に説明できる病名は何であるのか」です。これに対して、ウソ医学は存在しない症状に焦点を当てること(ないものねだり)に特徴があります。ウソ医学では、その結果として現実に確認された症状を否定しようとします。この点にウソ医学の特徴があります。

加害者側は、医学意見書を用いるなどして「この疾患はABCDE…の症状が必須である。」として病名を特殊な重症例と混同させて、「ないものねだり」に誘導することが非常に多いのですが、検討方法自体に誤りがあります。

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12 事故との因果関係の証明のために診断を求める考え

 ⅰ 加害者側は、事故との因果関係の証明のために、診断の適否の判断が必要であると誘導することも多くみられます。

   例えば、「原告の主張する関節拘縮はCRPSに由来する症状である。従って、原告は本件事故によりCRPSを発症して、CRPSに由来する症状を生じたことを証明する必要がある。」との理屈を述べるものです。

   即ち、「病名による説明がなければ、その症状が事故により生じたのかどうかを判断できない」と主張するものです。これは上記の「正体不明の症状を認めることはできない」との理屈とも重複する面があります。

   加害者側は、この意図のもとに医学意見書を用いるなどして、「原告は本件事故によりCRPSを発症して、CRPSによる症状を生じたものとは認められない」などの多重の抱き合わせ表現を多用します。抱き合わせ表現は上で述べたほかの理屈を兼ね備える多層的な意味を持ちます。

 ⅱ この理屈は診断の適否により症状を裏付けようとするものではないので、上記の循環論を避けることができます。但し、この理屈では診断を否定しても症状は否定できません。

   そこで、加害者側は「診断を否定した以上、事故との因果関係が認められない被害者の症状の存否や程度を検討する必要はない」との理屈で、現実に被害者に残存する症状を検討しないように誘導します。

   即ち、「被害者にどのような後遺障害が残存しているかはともかくとして、とにかく『本件事故により発症したCRPSに由来する症状』は存在しないことだけは認められる。」との理屈に誘導します。

 ⅲ 正しい検討においては、まず被害者に現存する症状の有無や程度を確定します。その後に、「その症状を生じるについて、本件事故以外により可能性の高い具体的な候補が存在するか」を検討します。診断の適否は最初から最後まで検討対象にはなりません。

   もとより因果関係を証明するために病名を証明する必要はありません。被害者の症状は通常は事故を基点として始まり、事故後の治療経過からは最終的な症状(後遺障害)との連続性を有しています。

   この状況においては事故と最終的な症状との因果関係は推定されます。この因果関係の推定を覆すためには加害者側にて、「より可能性の高い具体的な代替原因」を主張する必要があります。これが最高裁判決(ルンバール事件、B型肝炎事件など)の基本的な考えです。

  このように最終的な症状(後遺障害)について事故による外傷性の推定が働く以上、被害者側が病名においても新たな証明をしなければならない理由はありません。むしろ、加害者側が「その症状は事故により生じる外傷性のものではないこと」を真の病名となる具体的な病名をあげて主張する必要があります。最高裁判決においても具体的な「他原因」の主張・立証を相当程度しなければ因果関係の推定は覆らないとしています。

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13 事故後早期の診断を求める考え

 ⅰ 加害者側が用いる医学意見書では、事故との因果関係の証明のために事故後早期の診断が必要であるとの趣旨を述べることが多く見られます。

   例えば、「被害者が本件事故によりCRPSを発症したのであれば、遅くとも事故半年後にはその診断ができるほどに悪化していたはずである。しかし、事故半年後の被害者の症状からはCRPSと判断することはできない。よって、被害者は本件事故によりCRPSを発症したとは言えない。」との理屈を述べます。

   上記の「半年」は事案によって、2か月、3か月、3週間、1年などの期間に変わります。要するに被害者の症状の悪化がカルテ等から読み取れる時期よりも早い時期で区切ります。

   CRPS(RSD,カウザルギー)の事案では、医学意見書で病期説(三期説)を引用するなどして、事故後半年以内などの早期に症状が重症化する必要があるとする主張も多用されます。なお、病期説は疾患をイメージするためのもので、診断基準ではありません。臨床の大規模調査ではほとんどの患者が病期説の説明とは異なる症状経過を辿ったため、現在では病期説の説明自体が否定されています。

 ⅱ 上記のとおり、事故との因果関係を証明するために病名を証明する必要はありません。従って、その病名が事故後早期に診断できることはなおさら必要ありません。

   着目するべきは診断の適否ではなく、被害者に生じた具体的症状です。症状それ自体の連続性が明らかであるにも関わらず、任意の一時期でそれを区切って因果関係を否定することは、極めて不合理です。

   もちろん、事故によりCRPSを発症した(正しくは、「CRPSと評価できる症状に至った」である)事案では、半年以内に重症化するとの法則も存在しません。実際には、事故から1年後以降も悪化し続ける事案も多くみられます。CRPSでは症状固定が事故の3年後以降になっている裁判例も少なくありません。

   CRPSにおいては疼痛緩和の治療が打ち切られると症状が悪化する症例が多いため、労災の場合には症状固定後も国費で治療を続けることができるアフターケア制度が設けられています。即ち、症状固定後であっても症状が悪化することは国の制度の前提にもなっています。

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