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2015年11月19日 (木)

併合5級とされたCRPS(27.4.22)

1 大阪地裁平成27年4月22日判決(自保ジャーナル19511頁)

  この事案の特徴は、①右下肢、左足、左手関節の骨折により多発的にCRPSを発症した事案であること、②自賠責で7級と認定されたこと、③判決は就労不能の状況を認定しつつ併合5級としたこと、④オピオイド系鎮痛薬の使用により続発性副腎機能低下症が生じたことなどです。

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2 事故状況

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 被害者は事故時32歳男子個人事業主です。平成20年2月17日に信号交差点を直進していて、右折してきた乗用車に衝突されて、さらに電柱に衝突して重症を負います。

判決は右折車(加害者)が、明らかな早回り右折(道路の中心まで進まない状況で右折を始めたこと)や交差点直前でウインカーを出したことなどを理由に過失相殺を否定しました。

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3 症状の経過

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  要約すると、被害者の3つの骨折部位がそのままCRPSに至っています(但し、左手はCRPSとは診断されていないようです)。判決には具体的な症状経過の記載はありません。各部位の骨折は以下のとおりです。

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 ①右下肢に右脛骨(すねの骨)高原骨折(膝関節に面している部分の骨折)、右膝蓋骨骨折(ひざの皿の骨折)、右腓骨近位端骨折(ひざの後ろを支えている骨の骨折)を負います。悪化してカウザルギー(CRPS2型)と診断されます。右膝関節以下の痛み、感覚脱失が残りました。

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②左足に左足関節外果骨折(かかとの外側の骨折)、左距骨骨折(足の甲の付け根の骨折)を負います。悪化してCRPS1型と診断されます。痛みとしびれ、足関節の可動域制限が残りました。

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③左手に左ベネット骨折(親指の付け根の骨折)を負います。悪化して神経障害性疼痛とともに手関節に大きな可動域制限が残りました。その後、疼痛や可動域制限が左上肢全体に波及したようです。

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4 症状固定の時期

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 ⅰ 被害者は事故(H20.2.17)ののち5か月半ほど入院し、その後9か月通院し、平成21年4月20日に症状固定とされました。上記の症状からは1年2か月での症状固定は早すぎます。私は本件では少なくともあと2年ほどの期間は経過観察として不可欠であると思います。

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これまで検討してきた裁判例では、早期の症状固定後に症状が悪化して被害者が再度の症状固定を主張している事案がいくつかあります。症状固定とされるとその後の被害者の治療費は自費負担となり、疼痛緩和の治療が十分に受けることができず、症状が悪化するおそれもあります。

CRPSに関しては労災ではアフターケア制度により症状固定後も国費で治療が続けることが可能です(但し、治療内容は制限されています)。自賠責はこの制度が欠落しているため、早期の症状固定を避けて被害者の症状経過を十分に観察した後に症状固定とするべきです。

 ⅱ 本件では症状固定後にかなり高額(月平均5万9000円ほど)の治療費を必要とし、平成22年6月からはフェンタニルパッチ(オピオイド系鎮痛薬)の投薬を始めています。このことからは症状固定が早すぎたと言えます。仮に被害者に資力がなかったならば、これらの治療は受けられず、症状固定後に症状の悪化がさらに進行したと考えられます。

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5 自賠責保険の後遺障害認定

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 ⅰ 自賠責は後遺障害等級7級4号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの)としました。

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   しかし、被害者は両足や左上肢の激しい痛みやけいれん発作や上記の可動域制限などのため日常的な介護が必要であり、食事・移乗・整容・トイレ動作・入浴・平地歩行・更衣が一部介助、排便・排尿管理は自立とされています。両下肢と左手に装具を着け、右手で杖をついて他人の介助があれば短い距離の歩行は可能とされていますが、現実には痛みや疲労感、倦怠感から1日の大半をベッドで過ごしているとして、訴訟で2級と主張しています。

判決は将来の介護費、電動式車イス、入浴補助、福祉車両、介護ベッド、家屋改造などの費用を認めています。即ち、判決は就労が不可能である事情を実質的に認定しています。

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 ⅱ CRPS(RSD,カウザルギー)については平成15年の通達でRSDの3要件が制定されてからは、ほぼ全ての事案で極端に低い後遺障害等級とされるようになりました。それ以前はRSDもカウザルギーに含めて(区別せずに)扱われていたようですが、これ以後はCRPSのほとんどがRSDとして扱われるようになりました。

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   後遺障害認定においては傷病名が問題とならないことが原則ですが、平成15年の通達はCRPSを狙い撃ちして、その後遺障害を極端に低く認定する意図が明確に現れています。その後は被害者がいかに重い後遺障害を残そうとも、12級を越える等級が認定された事案は皆無に近い(2件しか見当たらない。2件とも被害者の実情からは低すぎる認定である)異常な状況にあります。このことは「自賠7級の右上下肢CRPS」のエントリーでも述べました。

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 ⅲ 自賠責で12級を越えるとされた事案は本件で3件目です。しかし、被害者の実情からは7級は低すぎると言わざるを得ません。ところが被害者は後遺障害認定に対して異議申立をしたところ、元の等級(7級4号)よりも低い、併合8級相当であると判断されました。

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自賠責が極端に低い後遺障害等級を認定することは、他の制度にも影響を与えます。例えば、被害者の障害年金の額が低くなり、就労不能となった被害者が生活できない金額となる事案も生じています。

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6 CRPSの後遺障害認定

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 ⅰ 判決は「自賠責の基準で後遺障害を認定したら併合5級になる」との理屈で認定をしています。即ち、①右下肢の後遺障害がCRPSの1型(RSD)か2型(カウザルギー)かを検討し(19頁)、②後遺障害の部位ごとに細かく等級を認定し(21頁)、③それらを併合して5級相当であるとしました。

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 ⅱ この部分にはいくつもの誤りがあります。まず、医学的にはCRPSの1型か2型かで扱いを変える合理的な根拠はありません。1型と2型で症状や病態に違いはないとする考えが国際的にも趨勢(ほぼ定説)です。従って、判決では「この点で扱いを変える自賠責の基準は不合理であり、採用できない」と述べるべきです。

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ⅲ そもそも「CRPSであるかどうか」を検討する点において誤りがあります。通常であれば事故後の症状の連続性から被害者の最終的症状(後遺障害)は事故により生じたことは明らかです。従って、端的にその最終的症状を認定すれば足ります。病名のいかんに関わらず症状の程度のみを検討するのが後遺障害認定の基本です。

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  ところが、CRPS事案において、加害者側は「RSDによる症状」の有無を争点しようと誘導することが恒例となっていて、この誘導に乗せられた判決も多く見られます。しかし、「CRPSと診断できる。よって症状が認められる。」との関係は成り立ちません。症状を根拠にCRPSと診断し、その診断を根拠に症状を認定することは循環論の誤りがあります。

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なお、RSDの3要件は自賠責においても診断基準ではありません。「カウザルギーと同様に扱うための要件」と明記されています。労災や自賠責では「RSDであるかどうか」を認定しません。診断の適否を判断することは医学的判断ですので、医師のみがその判断を行なったことを医師の氏名を明記して表示しなければ医師法違反の犯罪となるからです。

ただし、自賠責の認定理由では「RSDであるかどうか」を判断したかのようなギリギリの表現が使われることが多くあります(一線を越えたように見える表現を用いることもあります)。このため誤解が生じやすいと言えます。

また、繰り返し述べてきたとおり、現実のCRPS患者であっても自賠責のRSDの3要件を満たすのは1%以下と想定され、基準自体に重大な誤りがあります。

厚生労働省は自らが制定した規準の妥当性を検証することが不可欠ですが、それがなされていません。臨床でCRPSと診断された患者のうち、RSDの3要件を満たす患者がどれくらいの割合で存在するのかの統計がとられていないという異常な状況にあります。

ⅴ CRPSであるかどうかが問題となりうるのは、「他の傷病名でより合理的に被害者の症状が説明できる」として代替案となる具体的な傷病名を提示したときのみです。その傷病が事故により生じない種類のものであることを加害者側は積極的に主張する必要があります。これに対して、CRPSであるかどうかの検討を被害者の症状の有無や程度に関連させることは誤りです。

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7 後遺障害の並存関係について

 ⅰ 正しい理解のもとでは、①被害者の具体的な最終的症状(後遺障害)を認定し、②それが本件事故を基点にして発生し、事故後の症状経過に連続性があることを述べれば足ります。

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このシンプルな方法に対して、加害者側はいろいろな理屈を付け加えることにより証明妨害を果たそうとします。即ち、①事故によりCRPSを発症した、②それにより「CRPSによる症状」を生じた、③RSDの3要件を満たす必要がある、④CRPSの後遺障害の上限は7級である、などの主張をすることが通常です。判決はこの影響を強く受けています。

 ⅱ 上記①ないし③の誤りは上で述べたとおりです。上記④について判決は神経症状と関節機能障害は別個に等級認定を行なうべきではなく、いずれか上位の等級をもって評価するのが相当であるとします。その理由として、両者は通常派生する関係にあるからと述べます(20頁)。

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しかし、CRPSには必須の症状が1つたりとも存在しないことは世界中の医師が認める定説であり、国際疼痛学会の判定指標や各国の判定指標からもこのことは一目瞭然です(必須の症状を設定していない)。従って、この部分は誤りというほかありません。

普通に考えてみても、「たんなる関節機能障害」と「強い痛みが存在する関節機能障害」を後遺障害として同等とすることは、明らかにおかしいと思います。

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8 裁判所には後遺障害等級を認定する法的義務はない

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 ⅰ 本件の判決で最も致命的であるのは、判決の事実認定と後遺障害等級が矛盾していることです。上記のとおり、判決は、将来の介護費、電動式車イス、入浴補助、福祉車両、介護ベッド、家屋改造などの費用を認めています。即ち、個別の損害項目で被害者が就労不能である実態を認定しているといえます。そうであれば、自賠責の後遺障害等級が何級であろうが労働能力喪失率は100%となるはずです。

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しかし、判決は5級に対応する79%としています。これは事実認定として誤りというほかありません。判決は自賠責の後遺障害等級表の法的な位置づけを誤って理解しているように見えます。

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 ⅱ 本件のように自賠責で被害者の実情を無視した低い後遺障害が認定されている事案は非常に多く見られます。この場合に自賠責より重い後遺障害等級を認定する判決は多く見られます。しかし、そもそも判決で後遺障害等級を認定する必要があるのでしょうか。

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訴訟は自賠責の後遺障害認定手続の続審ではありません。自賠責の後遺障害認定基準は裁判所を拘束しません。最高裁平成18年3月30日判決と最高裁平成24年10月11日判決は自賠法(16条の3、15条)による請求の場合ですら、自賠法の支払基準は裁判所を拘束しないことを明言しています。

自賠責と訴訟は全く異なる相互に独立した手続です。訴訟で後遺障害等級を認定しなくとも自賠責の手続に不足は生じません。訴訟で後遺障害等級を認定することは法的な要請としては存在しません。従って、裁判所は判決で後遺障害等級を認定する法的義務を負わないことは明らかです。

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9 判決が後遺障害等級を述べないことが妥当な場合もある

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 ⅰ 裁判所が後遺障害等級を認定する法的義務を負わないとしても、裁判所が後遺障害等級を認定することが違法となるわけではありません。適切か不適切かの問題となります。

   私は被害者の事実的損害(怪我、後遺障害など)を金銭化する過程で、後遺障害等級表を参照することは、原則として認められると思います。多くの被害者について平等の扱いをする指標として後遺障害等級表を用いることに一定の合理性があるからです。

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   しかし、後遺障害等級表を用いて、個々の被害者が現実に置かれている状況を無視することは誤りです。被害者に大幅な収入減が生じていて、それが事故によるものであれば、その割合は事実認定で考慮される必要があります。逆に、大企業の従業員や公務員などの事情により、大きな後遺症が残っているにも関わらず減収が少ない場合には、その事実を考慮する必要があると思います。

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   被害者が就労不能であれば、後遺障害等級をうんぬんする以前の問題として、労働能力喪失率は100%となるのは当然のことです。本件では被害者の現実の状況から(等級認定の技術的な議論抜きに)端的に「被害者は就労不能である」とすることが正しい事実認定です。本件では後遺障害等級に言及することは不適切であると思います。

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 ⅱ しかし、そうすると、加害者の任意保険会社は「実質的に3級と認定されたのに、自賠責保険から回収できる金額は7級相当となって困る」との立場に置かれます。裁判所はその立場を考慮して判決で3級と書くことが望ましいのでしょうか。

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 裁判所は民間の私企業の利益に配慮して、法が要請していない余分な認定することは慎むべきです。実際にも、後遺障害等級を明示せずに労働能力喪失率のみを記載する判決や、認定した後遺障害等級に対応しない高い労働能力喪失率を用いる判決をしばしば目にします。このような対応も1つの見識であると思います。

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   裁判所がこのような対応をした場合、加害者の任意保険会社は、自賠責に対して「訴訟でも通用する適切な後遺障害等級を認定して欲しい」と要請するほかありません。

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   これに対して、裁判所が任意保険会社の利益に配慮して後遺障害等級を認定した場合には、任意保険会社は裁判所が認定した等級に対応する費用を自賠責から追加で受け取ることができます。この場合、任意保険会社は自賠責に対して「これからも実情を無視した低い後遺障害等級を認定して欲しい」との期待を持つことがその利益にかなう立場に置かれます。

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 ⅲ CRPSの事案では自賠責は「RSDの3要件」という異常な基準を設定して、現状を無視した不合理な後遺障害認定を機械的に大量に作り出している状況にあります。もちろん、自賠責において現実を無視した極端に低い後遺障害等級が認定されている事案はCRPS以外の事案でも多く見られます。

   これらの事情が存在する場合には、裁判所は後遺障害等級をあえて認定せずに、被害者の実態に合った労働能力喪失率を認定する対応こそが望まれているとも言えます。

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